操作レス連続決済端末「TMN Fast Gate Ticket」開発の裏側
―地方都市の切実な現場の声からサービス化への道のり―

 
操作レス連続決済端末「TMN Fast Gate Ticket」開発の裏側 ―地方都市の切実な現場の声からサービス化への道のり― イメージ   

端末開発担当の大山です。
今回は、TMNの新サービス「TMN Fast Gate Ticket(ファスト ゲート チケット)」の開発の裏側についてお話しさせていただきます。

「TMN Fast Gate Ticket」は、スタッフやドライバーが端末を操作することなく、あらかじめ設定した「同一金額」「同一決済方法」を連続で処理できるサービスです。たとえば、均一運賃のバスやレジャー施設の入場料など、短時間に多くの決済が集中するシーンにおいて、現場スタッフの負荷と利用者の待ち時間を劇的に減らし、スムーズな決済体験を提供します。

一見するとシンプルで「ありそうでなかった」このサービス。なぜこれまで世の中に存在しなかったのか、そして私たちがどのような壁を乗り越えて実現に至ったのか、その開発ストーリーをお届けします。

地方の現場で見た「交通の維持」と「コスト」のジレンマ

交通系ICは、鉄道やバスなど交通利用で用いられる「交通処理」と電子マネーとして商業施設などで利用される「物販処理」があります。

「交通処理」は、「乗った場所」「降りた場所」の情報を取得し、計算した「運賃」が決済端末に連携されカード残高から運賃を引去る仕組みです。専用機器や交通事業者独自の運賃計算システムとの連携が必要で、導入や入替、改修を行う際には大がかりなプロジェクトとなり、導入・維持費ともに高額になりがちです。一方、店舗などで使われる「物販処理」はPOS等から連携された「金額」の決済処理を行う仕組みです。

数年前から事業者側からも商業施設同様に物販処理という安価な仕組みで交通を維持したいというニーズが高まってきたこともあり、交通利用であっても条件を満たせば「物販処理」で対応できるようになりました。電子マネーの物販処理はTMNの創業時からのコア領域です。スーパーやコンビニなど全国の流通店舗に決済ゲートウェイを提供してきた私たちにとって、このニーズの高まりは、これまでTMNが商業で展開してきたキャッシュレス決済の知見を交通領域で発揮できるまたとないチャンスでした。

TMNではいち早く地域交通に特化した専門チームを組成し、私も営業メンバーとともに全国の地方都市を訪問しました。そこで目の当たりにしたのは、地方交通が直面する非常に厳しい現実でした。

多くの路線バスでは「乗る時と降りる時」の2回タッチする方式が採用されていますが、乗車口と降車口の双方に高額な専用車載機が必要となります。しかし、過疎化や人手不足で路線の維持すら困難な地方交通事業者にとって、その導入・更新コストはあまりにも重い負担となっていました。

路線バスの縮小が進む一方で、移動や買い物が困難な「交通空白地(買い物弱者)」を支えるために、自治体が主導するオンデマンドバスや乗り合いタクシーなどの新しいモビリティが急速に広がっています。路線バスよりも小規模に運営する地域のコミュニティバスではキャッシュレス決済の導入・維持費は深刻な課題です。

さらには慢性的な運転手不足も課題となる中で、運転手の負担を極力削減したいという声も多く聞かれました。キャッシュレス決済は現金の受け渡しがなくなり業務が軽減されると考えられますが、運転から決済、お客様のご案内まで様々な業務を一人で行っている状況下では、決済機器の操作が重荷と感じられることも多いようです。

地方を10か所以上訪問して聞こえてきたのは、共通して「キャッシュレス決済を導入したいが、コストと運用面の課題がクリアできない」という声でした。

「高価な機器を導入できない現場でも、誰もが安価に導入できて、運転手に負担をかけない決済システムはつくれないだろうか」
その強い想いから、今回の開発プロジェクトが動き出しました。

逆転の発想から生まれたプロトタイプと、展示会での確信

現場の課題に向き合う中でひらめいたのが、「端末操作を行わず、決済の待ち受け状態を自動で維持し続けるオートローディング機能」でした。

青いランプが点滅し常にかざせばすぐに決済ができる状態になっている イメージ
青いランプが点滅し常にかざせばすぐに決済ができる状態になっている   
これまで市場にこうしたサービスが存在しなかった最大の理由は、交通インフラも物販レジも、「運賃計算」や「商品の合算」など、都度金額を計算するPOSのような機能を持つことが“当たり前”とされていたからです。

私たちはあえてその常識を捨て、オンデマンド交通やイベント等で広く採用されている「一律料金(均一金額)」に用途を限定するという逆転の発想を取りました。金額をあらかじめ固定してしまえば、都度の入力や確認は不要になります。

まずは社内でできるだけスモールに開発をスタート。生成AIなどもフル活用しながら開発コストを極限まで抑え、スピーディーに試作品(プロトタイプ)を形にしました。

そして、このプロトタイプを展示会に出展してみたのです。
狙いは市場の生の声を集めること、そして「このサービスには確実な需要がある」という事実を、今後の社内調整や関係各所への説得材料にすることでした。

結果は予想以上でした。地方自治体やバス事業者から「まさにこういうものが欲しかった」と熱い反響をいただいただけでなく、意外なところでは「企業の社員食堂」や「イベントの入場ゲート」など、想定していなかった多様な業種からも引き合いを多数いただきました。
「このニーズは本物であり、絶対に世に出さなければならない」と確信した瞬間でした。
展示会での展示の様子(一番左がTMN Fast Gate Ticket端末) イメージ
展示会での様子(一番左がTMN Fast Gate Ticket端末)   

ブランドルールとの調整
交通系ICのブランド方針に寄り添い、交通系ICとともに超えていく

しかし、展示会での手応えの先に、最大の難関が待ち構えていました。交通系ブランドが定める厳格なレギュレーション(ルール)への対応です。

日本独自のFeliCa技術を基盤とする電子マネーは、不正や誤操作を防ぐためのレギュレーションが非常に厳密で、ブランド事業者それぞれが厳格なルールを定めています。
シンクライアント方式の物販処理において「操作なしで連続決済する」という前例のない仕組みは、そのままではお客様に不利益を与えてはならないというブランド方針に合致しない項目がいくつかありました。
展示会で得た「現場からの強い期待」を背負い、私たちは一つひとつのルールと向き合い、技術面でのカバー策を組み立てていきました。

カバー策のいくつかをご紹介します。

1. 利用金額や利用後の残高のご案内
TMNが現在提供している決済端末では、決済後に操作スタッフや利用者に対して「いくら引かれ、残高がいくらになったか」を視認できるようにしていますが、案内画面を挟むと次の決済までお待たせすることになり、スムーズな連続決済ができません。
そこで決済端末(UT-P11)の1つの画面を2分割し、スタッフ側と利用者側の双方が同時に必要な情報を確認できる画面レイアウトを開発し、これまでの機能を維持することができました。

2. 同一カードの誤った2回連続タッチの防止
利用者がカードを離すのが遅れたり、迷って2度かざしてしまったりした際に、二重決済が発生しないような防止ロジックを技術的に組み込みました。

このように、これまでにない端末の挙動や機能については、交通系ブランド事業者の理解を得られるよう丁寧な説明を心がけるとともに、事業者側の懸念や疑問点については技術的な代替案を示し、ご理解いただくことで、あらたな商品として世に送り出すことができました。

こうした対話を重ねてこられたのは、これまでにTMNが築いてきた交通系ブランド事業者との信頼関係の上に成り立っており、他社にはなかなか真似のできないことだと思います。
一つひとつの対話に真摯に向き合っていただいた担当の方々には心から感謝しています。

「1台売り」から「面のソリューション」へ――社内の壁も越えて

技術的な目処が立つ一方で、社内のビジネスモデルとしてのハードルもありました。

TMNの顧客は大規模~中規模の流通事業者が多く、1案件で数万台規模の決済端末を導入するケースも珍しくありません。そうした中で、「地域のオンデマンド交通に1台導入する」という規模感のビジネスは、従来の事業構造からすると費用対効果が見合わないと判断されかねませんでした。

ここで力になってくれたのが営業部門です。
端末を単に「1台売る」ビジネスではなく、自治体や運行事業者、共同開発パートナーとともに、地域の交通インフラ全体を支える「面のソリューション」としてビジネスモデルを再構築し、サービス全体の収益性を考慮した座組みをつくることで社内を説得してくれました。

TMNのDNA「ありえないをやり遂げる。」

「TMN Fast Gate Ticket」に搭載されている要素技術自体は、もともとTMNが長年培ってきた決済ゲートウェイの基盤技術の組み合わせです。
しかし、「操作レスで連続決済する」というこれまでにない価値を生み出せたのは、TMNの企業ミッションである「ありえないをやり遂げる。」という精神が開発チームや営業チームの根底にあったからこそだと実感しています。

常識にとらわれず、現場の困りごとに徹底して寄り添い、制度や慣習の壁にぶつかっても技術と対話で道を切り拓く。この姿勢があったからこそ、サービスを世に送り出すことができました。

今後の展望:地方創生、そして誰もが移動しやすい社会へ

交通空白地や買い物弱者が広がる地域において、「TMN Fast Gate Ticket」がドライバーの負担を減らし、住民の皆さまのスムーズな移動を支えることで、地域内の移動や消費が活発になり、地方創生に少しでも貢献できれば開発者としてこれ以上の喜びはありません。

もちろん、これで完成ではありません。自治体によっては、子どもや高齢者向けの運賃割引や無料化といった福祉施策を実施されているケースも多くあります。現時点では一律料金のみの対応ですが、将来的にはそうした「地域・福祉と連動した柔軟な割引」への対応も視野に入れています。

交通領域から始まった「TMN Fast Gate Ticket」ですが、その本質は「短時間の決済集中と現場の手間をゼロにする」ことです。これからも現場の声に真摯に耳を傾けながら、あらゆる場所でストレスのないスムーズな決済環境をつくり、社会のアップデートに挑戦し続けてまいります。

▼「TMN Fast Gate Ticket」について詳しくはこちら

https://www.tm-nets.com/service/thinclient/fast-gate-ticket/